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犬の早食い防止食器は効果がある?必要?

どうやら世間では、犬の早食いに悩んでいる飼い主が多いようです。
実際、当店のお客さまのなかでも、割と多くの飼い主さまたちが悩んでいたりするのです。
そんな悩みを解決してくれる?商品が「早食い防止食器」なるものです。

そこで今回は、犬の早食いと早食い防止食器について考えてみます。

結論から

このテーマについての解説は、そこそこのボリュームになるため、まずは結論から述べます。

  1. 早食い防止食器は不要、逆効果になる場合も
  2. 早食い防止よりも、誤嚥防止に焦点を当てるべき
  3. 環境構築と練習で改善できる

私の見解はこのようになります。
それでは、ひとつずつ解説していきます。

そもそも早食いは止めさせるべきなのか

早食いは良くないというイメージはあるけれど、そもそも何故良くないのか?を調べてみました。

  1. 早食いは咀嚼が足りない
  2. 唾液腺から出る消化酵素が働きにくい
  3. 太りやすい

簡単に見つけられる情報をまとめると、こんな感じでした。
では、それぞれ詳しく見ていきましょう。

早食いが良くないと言われる理由

早食いは咀嚼が足りない

咀嚼とは、消化の過程でかみ砕き、飲み込みやすくすることです。
咀嚼が足りないと食べ物が気管に入る誤嚥(ごえん)につながるため、危険であるということです。

唾液腺から出る消化酵素が働きにくい

食べ物を噛むことで、唾液腺からアミラーゼという消化酵素が出ます。
アミラーゼは炭水化物に含まれるデンプンを分解する働きがあります。

太りやすい

ゆっくり噛んで食べると、食欲増進のホルモンが減少し、食欲抑制のホルモンが出ます。
早食いで噛まずに一気に食べると、食欲が抑制されないまま食事が終わるため、たくさん食べてしまうことになります。
また、よく噛んで食べると交感神経が活発になり、エネルギー消費するのですが、噛まずに食べるとその分のエネルギー消費が減少するようです。

犬の場合は?

ここまでの情報を見る限り、やはり早食いはよろしくなさそうですね…
しかし、これは人間の情報であり、犬にもそのまま当てはめていいのでしょうか?

やはり誤嚥のリスクはある!

犬も誤嚥が起こり、窒息や誤嚥性肺炎につながる恐れがあります。
これは、人間でも犬でもとても危険なため、気を付けるべきでしょう。

唾液腺からアミラーゼは出ない

アミラーゼは、穀物を多く食べる人間の唾液腺から分泌しますが、犬は肉食に近い雑食性であり、唾液腺からアミラーゼは出ません。
犬は腸内でデンプンを消化吸収するので、よく噛むかどうかはあまり関係なさそうです。

太るかは飼い主の管理次第

食欲増進、食欲抑制のホルモンについては、早食いして食欲が減少しないとしても、飼い主が適切に食事量を管理すればいいだけの話なので、犬にはあまり関係ないといえます。

歯周病になりやすい

食べ物を噛むことで唾液が口内に行きわたるため、雑菌の繁殖が抑えられます。
早食いで噛まずに飲む習慣がついていると、雑菌が繁殖しやすい状態になるため、歯周病になるリスクが上がるようです。
ただし、よく噛んで唾液が口内に行きわたったからといって歯周病にならないわけではありません。歯周病の予防には、日々の歯磨きが一番大切です。

ここまでの情報から考えると、早食い、一気食いを避ける一番の理由は誤嚥防止のためということになるかと思います。

早食い防止食器は効果があるのか

では、早食いを止めさせようと考えたときに、早食い防止食器は選択肢としてありなのか?が本記事のテーマです。

ネット情報では

早食い防止食器の効果についてインターネットで様々な情報を確認しましたが、正直信ぴょう性に欠けるものが多く…
というのも、ネットで商品のレビューや紹介をする場合、基本的にはアフィリエイト(広告の一種)として紹介していることがほとんどです。紹介した商品がそのサイト(ブログ)経由で売れれば、紹介者に広告収入が入ります。
ということは、売れるようにいい内容しか書かかず、ほとんどのサイトで「効果あり」としておすすめしているのです。

だからこれまでの私のペットシッター経験で感じた効果と乖離が大きくなるわけです。

著者の経験では

私の経験談のお話になってしまい恐縮ですが、シッター顧客のなかで多くのご家庭が早食い防止食器を取り入れていますが、それによって早食いが治った犬は見たことがありません。
多少の改善(20秒が40秒になった程度)は一時的にあっても、犬は課題をクリアするために学習して上達するため、すぐに早食いができるようになってしまいます。

狙った効果を得られるのか

すでに述べているように、早食いを止めさせたい理由の第一位は「誤嚥の防止」だと、私は考えます。
食べにくくなったから時間がかかるようになったのは事実だとしても、焦って食べている行動そのものは変わらないわけです。

どういうことか。
食べにくい食器を使い、口に運ぶまでの1回ごとの時間が普段より長くかかることで、食事全体の時間が長くなります。故に、ゆっくり食べているように感じます。ところが、1回ごとの口内での食べ物の処理速度(飲み込み方)や、食べ物に対する心理状態(急いで食べようとすること)自体は変わっていないため、誤嚥のリスクが低下するとは考えにくいのです。事実、早食い防止食器を使用しても、気管に吸い込んでゲホゲホしている犬は多いです。

食べ終わるまでの時間自体は多少のびるかもしれないが、狙った早食い防止効果は得られないのではないか。
これが私の考えです。

犬の早食いに対する解決策

さて、このまま本記事を終わらせてしまうと、「早食い防止食器では解決しない」という意味のない記事になってしまうので、ドッグトレーナーの立場から考える早食い防止の解決方法、アイデアをご紹介します。

生き物の行動を変えるためのステップは3つ。

  1. 問題となる行動の原因、理由を探る
  2. 原因、理由を排除した環境を整える
  3. 正しい行動を引き出すトレーニング

犬が早食いをする理由を探る

犬が急いで食べるのは習性として普通です。生存確率を上げるには、他者に取られる前に急いで食べる必要があるからです。また、犬歯が発達していることからも、噛まずに食べる構造になっているのは明らかです。

心理状態

では、急いで食べることが普通の生き物が、食べにくい状況に置かれるとどうなるか考えてみましょう。
より急いで食べる。
他者に取られる前に急いで食べたい(安心して食べられない)と考えれば、より急いで食べようとする可能性は上がります。犬の食事中に近づいたり、触ったり、食べにくい食器だったりする環境では、食べ物を確実に確保するために早く食べようとする心理が働くことは想像にたやすいです。

学習による行動

さらに、三項随伴性で考えてみます。
食べにくい(刺激)→焦って興奮状態で食べる(行動)→食べ物GET(結果)
焦って興奮状態で食べるという行動によって、食べ物をGETするという結果を得たことで、「焦って興奮状態で食べる」行動が強化されます。
これを繰り返すうちに、ますます焦って食べることを学習していきます。

あれ…早食い防止食器って、逆効果になる可能性も…?

早食いの原因、理由を排除する

それではさっそく、早食い(誤嚥)防止へのアプローチをしていきましょう。
早食いの原因、理由を排除していきます。

安心して食べやすい環境を作る

すでに解説している通り、食べにくい、安心して食べられない状況では、より急いで食べる可能性があるため、まずは安心して食べやすい環境を用意します。多頭飼育の場合は部屋を分けてごはんを与えたり、人の往来や環境音などの刺激が少ない場所を食事場所にすることが大切です。
また、食器の設置場所の高さを適正にしたり、食器の深さやサイズを犬に合わせることで、食べやすくなるだけでなく、誤嚥のリスクを下げることができます。

適切なごはんを選択する

ごはん(粒)の大きさが小さすぎると吸い込んで気管に入り込むリスクが上がりますし、大きすぎても喉に詰まるリスクが上がります。個体ごとに適切なサイズのごはんを選択することが大切です。
また、ごはんを水でふやかすことで誤嚥のリスクを下げることができます。ふりかけや粉のサプリなどをトッピングする場合も、水で混ぜることで吸い込むリスクを下げることができるのでオススメです。

落ち着ける環境を作る

早食いを防止するには、何よりも落ち着いて食べることが最善です。早食いの犬は、ごはんの準備をしている最中からすでに大喜びで興奮し、その興奮状態のまま食事が始まります。その様子はとてもかわいく、飼い主にとってもその姿を見るのは幸せな一コマかとは思いますが、早食いを止めさせるのであれば興奮は抑えるべきです。

まず落ち着ける環境を作るには、有り余るエネルギーを発散することが先決です。簡単な方法は、ごはん前の散歩です。本来、犬(オオカミ)はテリトリーの安全確認(散策)と狩りをしなければ食べることができません。そのため、移動と狩りによるエネルギーの発散が食事前に自然と行われています。
家庭犬では、散歩がこの役割にあたりますので、散歩後のごはんという流れはとても自然な構成であり、おすすめできます。

それにあわせて、普段から興奮状態の犬に報酬を与えない習慣をつけましょう。報酬とは、褒めたりおやつをあげるだけを指すのではなく、飼い主が関心を向けるだけでも犬にとっての報酬に成り得るので注意しましょう。

正しい行動を引き出すトレーニング

ここまでのステップで早食いになりやすい要因を排除して、環境をフラットに近づけました。これだけでも少しゆっくり目に食べるようになった子もいるとは思いますが、そう簡単に早食いが治るというものではありません。やはり、トレーニングで正しい行動を反復練習して行動変容することが必要になります。

ごはんに対する興奮を抑える

どれだけ適切な環境を準備しても、これまでの学習が行動に影響するため、ごはん前の大興奮状態がなくなるわけではありません。まずは、ごはんを認識した時の興奮を抑えることから練習しましょう。

  1. ごはんの準備をする
  2. 犬が興奮する(興奮度100%)
  3. 犬が少し落ち着くまで待つ
  4. 犬が少し落ち着く(興奮度95%)
  5. 褒め言葉+ごはんを一粒与える
  6. 犬がもう少しだけ落ち着くまで待つ
  7. 犬がもう少しだけ落ち着く(興奮度90%)
  8. 褒め言葉+ごはんを一粒与える

以降、繰り返します。
箇条書きを見るとステップが多いように感じますが、内容はとても単純です。興奮状態は時間経過とともに落ち着いていくので、落ち着いていくごとに一粒ずつ報酬が与えられる仕組みです。ごはん前の興奮は食器に対しての反応である場合も多いので、食器から少しずつごはんを取り出して与えていくようにすると反応を抑えられるようになります。

これを繰り返していくことで、「落ち着けばごはんが食べられる」ということを学習して、不要な興奮が起こらなくなっていきます。落ち着きが定着するまでは、毎回の繰り返しとある程度の期間が必要なので、根気よく諦めずに続けましょう。食器を目の前にしてもフラットな精神状態を保てるようになれば、この練習は卒業です。

衝動の制御はこちらの記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。
[blogcard url=”https://www.pet-mafamille.com/blog/why-dog-training-is-not-successful/”]

次は、より実際のごはんに近い状況で練習していきます。
いつもの食器を犬の前に置き、空の状態でスタートします。

  1. 落ち着くまで黙って待つ
  2. 犬が少し落ち着く
  3. 食器に一粒入れて、ヨシと掛け声
  4. もう少し落ち着くまで黙って待つ
  5. 犬が少し落ち着く
  6. 食器に二粒入れて、ヨシと掛け声

以降、少しずつ粒を増やしながら繰り返します。
このとき、粒を増やしていくペースが結構難しいと思うのですが、焦らずに気長にやっていくほうがいいです。初めて練習する場合は、一食分の最後まで一粒ずつ上げるくらいでもいいでしょう。
※時間はかかりますが、良いコミュニケーションのチャンスと思って取り組んでください

ポイントは落ち着いて焦らずに食べることなので「なかなかもらえない→やっともらえたから丸のみ!」のような状況にならないことが必要です。一粒与えた際に急いで飲み込んだりした場合は、ちゃんと落ち着けていないと考えて、もっとしっかり落ち着くまで待ってあげることが大切です。
落ち着くまでしっかり待ってあげることで、一粒を噛む確率があがっていきます。噛んで食べた場合は即座に褒めてすぐに次の一粒を与えましょう。

どのトレーニングでもそうですが、犬の行動を変えるアプローチをした際に、より興奮度が増したり吠えたりするケースがあります。多くの飼い主さんはこれを理由に「うちの子はできない」と考えてしまうのですが、それは間違いです。

行動を止めさせるアプローチは(今回のケースではごはんへの興奮)、消去手続きと言います。消去手続きは行動の頻度が減少していき、最終的に発現しなくなるのですが、その過程でより強い反応(行動)がでる場合があり、これを消去バーストと言います。なかなかごはんがもらえないからもっと興奮したり、吠えてみたりする行動です。消去バーストは一見良くないアプローチをしてしまっているように考えてしまいますが、確実に消去に向かっている証拠なので、淡々と続けるようにしましょう。

こうしたトレーニングを淡々と続けていくことで、ゆっくり噛んで食べることが習慣付いてくるので、早食いの本質的な問題解決ができていきます。犬のお世話は一つひとつしっかりと解決していこうとするととても手間がかかり、大変です。ですが、生き物と暮らす以上は当たり前のことです。
人間の赤ちゃんがごはんを綺麗に上手に食べれるようになるまでに、親が時間をかけて丁寧に教えていくことと同じです。手間をかけて犬が少しずつ成長していく姿を見ることは、とてもいい経験になりますので、ぜひ諦めずにチャレンジしてもらえればと思います。

結論

  1. 早食い防止食器は不要、逆効果になる場合も
  2. 早食い防止よりも、誤嚥防止に焦点を当てるべき
  3. 環境構築と練習で改善できる

冒頭でもまとめましたが、ここまでの解説から、私はこのように考えています。
犬との暮らしやしつけのなかで、難しいと感じることがあれば身近な専門家に相談して、楽しいペットライフを過ごしましょう。
この記事が少しでもお役に立てたら幸いです。

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著者


HIROMU ITOGA
Dog trainer/Pet sitter
日本ペットシッターサービス仙台店所属

ドッグトレーナー
動物介護士
動物介護施設責任者
愛玩動物飼養管理士