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犬のしつけ、トレーニングがうまくいかないときに必要な知識と考え方

ペットシッターという仕事柄、とても多くの飼い主さんとお話する機会があります。ほとんどの飼い主さんが抱えている悩みは、しつけやトレーニングがうまくいかないということです。ネットの情報や人からやり方を聞いて実践しても、思った効果が出ないケースが多いのです。

そこで今回は、何故しつけやトレーニングがうまくいかないか、うまくいかないときに必要な知識と考え方について解説していきます。

そもそも「トレーニング方法」以前の問題が多い

犬をしつけようと思ったときに、多く(ほとんど)の飼い主さんは間違いを起こします。
それは、トレーニング方法(技法、やり方)を調べたり、聞いたりすることです。犬の行動を変えよう、これを覚えさせようと考えたとき、まずネットで方法を調べませんか?トレーニングがうまくいかないとき、ほとんどはこのパターンにはまっています。

相手が生き物でなく機械であれば、「A」と指示を出せば「A」という結果が得られるという単純な構造ですが、犬は生き物です。
「A」という指示を出した時の理解力、精神状態、環境などによって結果が千差万別で、個体ごとに「B」にも「C」にも「D」にもなり得るのです。
ネットで方法を調べるというのは、すなわち『「A」という指示を出すこと』自体を調べているのであり、個体の状態、反応にフォーカスしていないということなのです。

例えば、東大に合格する方法を調べたとします。試しに今「東大に合格する方法」で調べてみました。検索1位に出てきたサイトをちらっとみたところ、高校2年生当時、偏差値65~70と記載がありました。さて、この時点で仮に偏差値が40だった場合、同じ方法で合格できるでしょうか。はたまた、そもそも同じだけの勉強レベルを同じ時間継続してできるでしょうか。

このように、しつけの最終目標が同じ形だったとしても、個体によってスタートラインも違えば反応も違ってくるわけです。教える方法をたくさん知ることも当然大切ですが、しつけのスタートラインや愛犬の特徴にちゃんと向き合ったコミュニケーションはとれていますか?ということなのです。

トレーニングを始める準備はできていますか?

かく言う私も、実は専門的な勉強をするまでは愛犬のお散歩トレーニングにとても苦労しました。今にしてみれば当時の愛犬はハイパーアクティブ犬で、外に出れば暴れまわり噛みつき、パニックを起こし、まったく意思疎通が取れない状況でした。ネットでトレーニング方法を調べたり、しつけが済んでいる犬の飼い主さんに聞いたりしても、うまくいきませんでした。
意思疎通がまともに出来ていないため、そもそもトレーニングをするための準備ができていなかったのです。

そんな愛犬も、本人に向き合って根気よくコミュニケーションをとってきたことで、ずいぶん上手にお散歩してくれるようになりました。

  1. 犬の意識は飼い主に向いているか
    しつけやトレーニングをするうえで重要なことは、犬の意識が飼い主に向いていること。相互理解をする準備ができてはじめてしつけの歯車がかみ合い始めるのです。意識が他のことに向いている最中は、どんなにトレーニング技術を用いても学習できません。これは人で例えるなら、テレビに意識が向いているときに勉強した内容が頭に入らないのと一緒です。
    冷静でいられること、飼い主に意識を向けること、これは「衝動」をコントロールする手続きが必要です。
  2. 行動の正解・不正解は正確に伝えられているか
    まずトレーニングとは、行動の学習にほかなりません。簡潔にいえば、望ましい行動の頻度をあげ、望ましくない行動の頻度を下げることです。そのために、望ましい行動をした際に正解を、望ましくない行動をした際に不正解を提示することになります。この正解・不正解を正確に犬に伝えられているかが、トレーニングの効率に影響します。
    飼い主は伝え方を学び、犬はそれを手掛かりに行動を自ら考え、変容していきます。
    正しく正解・不正解を伝え、正しく犬が反応するために、「褒める言葉」を覚えるためのベーストレーニングが必要です。

ルールの理解と衝動の制御

私が効率的にトレーニングを進めるために大事だと考えているのは、大きく分けて2つです。
「ルールの理解」という意味でのトレーニングと、「衝動の制御」のためのトレーニングを並行して進めること。

  1. ルールの理解
    一般的なトレーニング(学習)がこれにあたります。
    ドアから飛び出さない、人に飛び付かない、リードを引っ張らないなどのルールを理解するトレーニングです。
    刺激の強い環境や興奮状態ではトレーニング効率が大きく下がりますので、スモールステップで丁寧に課題を提示する必要があります。
    ドーパミン刺激を制御することで、トレーニングを効率化できます。
  2. 衝動の制御
    ルールの理解を効率的に進めるためには、衝動の制御が重要です。
    衝動の制御トレーニングは理性的な行動に繋がるため、トレーニングの最優先は衝動的にならないメンタルキャパシティの構築です。
    ルールの理解の中でも、ごく単純で簡単なトレーニング積み重ねて成功体験を増やしたり、ほんの少しハードルの高い障害を乗り越えることで、自信をつけます。課題を自分の力で乗り越える経験を積むことで、心に余裕が生まれ、衝動を制御できるようになっていきます。
    あわせて、人間と犬の相互作用のなかで、セロトニン神経を活性化させることで衝動的な行動を抑制できるようになります。

ルールの理解

既出の通り、ルールの理解には、正解・不正解をわかりやすく伝える必要があります。
行動の頻度を「上げる、下げる(無くす)」コントロールをしてルールの理解(行動形成)を促します。
簡単に言うと、正解は褒める、不正解は褒めないということです。
褒め言葉に価値を付けるためにベーストレーニングを行い、一番初めに褒め言葉を覚える手続きをしましょう。

手続きは簡単。
静かな慣れたお部屋で声をかけて始めます。
トリーツ(おやつ)を10個手に持って犬と向き合ってください。
◎イイコ(と声をかける)→トリーツ(をあげる)→イイコ→トリーツ→イイコ→トリーツ
これをリズム良く10回(1セット)繰り返します。1日に3セットくらい、毎日やりましょう。

この手続きを繰り返すことで、イイコ(褒め言葉)とトリーツ(報酬)が条件づけ(古典的条件づけ)されます。
要は、「イイコと聞こえたら報酬が出てくる」と脳が学習します。すると次第に、報酬が出てこなくてもイイコと聞こえたら唾液が出てくるようになります。すなわち、報酬の代わりとして機能するようになります。いわゆる条件反射です。
梅干しを見たら唾液が出てくるのと同じ理屈で、これは学習による条件づけというものです。
※条件づけがされていない外国人にとって、梅干しは唾液が出るものではない

これにて無事、報酬となる言葉(イイコ)を学習しました。
ベーストレーニングのレベル1ではありますが、これをしっかりやるとやらないでは、学習効率に大きな差が出ますので、必ず取り組んでください。

衝動の制御

衝動を制御するためのトレーニングはさまざまありますが、簡単なものから紹介します。

食事を待つ

  1. フードボールを手に持って始める
  2. 少しずつフードボールを下げていく
  3. 動かずに待っている間、粒を取り出して与える
  4. 床に置いても待っていたら粒を取り出して与える(手から)
  5. フードボールはすぐに回収する

フードボウルを下げていく間、動いたり飛びついたりしたら止まって落ち着くまで待ち、再開します。
ここまで成功したら、本人の状況を見ながらフードボールを床に置いて待たせる時間を少しずつ(1秒単位でも可)で伸ばしていきます。
成功できる難易度で進めていくことが重要です。
成功体験を積み重ねたら、気を散らして難易度を上げていきます。
一度立ち上がってから再度粒を取り出してあげるなど。

マスターしたら、「よし」などの合図でごはんタイムを楽しんでもらいましょう。
衝動を抑えて我慢することで報酬を獲得することを覚えます。

許可を待つ

  1. 手にフードを10粒ほど握る
  2. 鼻の高さか少し高い位置で匂いを嗅がせる
  3. 嗅いだり舐めたりしている間、手は握ったまま
  4. 執着をなくし離れたら手を開き始める
  5. また近づいてきたら閉じる
  6. これを繰り返して、手が開いていても故意に離れた状態を保てるようになったら、もう一方の手で粒を取り出して与える
  7. 粒がなくなるまで続ける

マスターしたら、与えるまでの待たせる時間を伸ばしていきます。自制心を養うのに有効です。
ステップを進めるには、床に粒の山(おもちゃなどでも可)を置き、手で覆います。
あとは上記手順をトレースします。

報酬を得ることを学ぶ

ベーストレーニングの応用ですが、犬が許可や報酬を得るための「犬から人へのコンタクト方法」を教えます。
「何かを得るために座って許可を待つ」という単純なものです。
玄関を出る前、歩く前、遊び始める前には座らなければならないというルールです。
座って我慢することで、その後の楽しい活動(報酬)を得られることと結びつけます。

手順、要領はこれまでのトレーニングと同様です。
座ったら許可を出すを繰り返します。
報酬がごはんから「玄関を出る」「歩く」「遊ぶ」などに変わるだけです。

ちなみに必ずしも座ることに拘らなくてもOKです。
自制心が働き、穏やかであればいいので、アイコンタクトやフセに置き換えても構いません。

相互理解のための適切なコミュニケーションを習慣づける

しつけの目的は、犬に人間の望む行動とってもらうことだと思います。そのためには、相手の感情や状態などの相互理解を深める必要があります。求めるだけではなく、与えることが大切です。
飼い主は往々にして、ダメなことを叱る、人間の指示を伝えることに注力しがちです。それでもうまくいかなかったら、まずはコミュニケーションを適切にとることから始めてみましょう。

適切なコミュニケーションとは何か

私の経験上、叱ったり、指示を伝えることに注力して効果が出たことはありません。
効果が出ても一時的なものです。
最も簡単に学習を促す方法は、自発的な望ましい行動に対して報酬を与えること(オペラント条件づけ)です。すなわち、学習過程において指示は出さず、正解をのばし(強化)、不正解をのばさない(弱化)ということです。
学習において、情報量が多くなるほど理解が難しいことは明白です。そこで、人間から与える情報を最小限にしようという、エコな理論が私の提案する適切なコミュニケーションです。

どういうことかというと、日常生活において犬が自発的に行う行動をしっかりと観察し、望ましい行動をした瞬間に褒めるということです。
まず、常に取り出しやすい位置にフードやトリーツの山を置いておきます。
普段の生活の中で望ましい行動を行なったときにイイコと即座に褒めてからフードを与えます。特に人間からの手掛かりや指示なしにいいマナーと行動を選択し始める最良のコミュニケーションです。人間側から行動のお願いをする必要はなく、本人の判断で行った望ましい行動(各瞬間)に絶えず報酬を与えて強化しましょう。

いい習慣が形成されると同時に、犬は常に人間の望む行動を模索する癖が付くので、コンタクトが容易になります。目安としては、1日50回以上褒めましょう。逆に、現在そのくらい褒めていないのであれば、しつけやトレーニングがうまくいかないのも納得です。生き物は自分の利益になる(不利益を避ける)行動を学習していくのですから。

この方法を行う時に注意することは、望ましくない行動を誘発する原因や対象物を排除しておくことです。
今回提案している方法は、望ましい行動を強化するだけですので、望ましくない行動はそもそも発現してほしくないわけです。そのため、初めからイタズラの対象になるもの、興奮の要因になるものを部屋から排除するべきです。望ましくない行動が発現した際は、叱らずに黙ってその対象物を片付けましょう。

まとめ

ここまでの内容をまとめると

  1. 「トレーニング方法」以前の問題かも
    ・犬ごとにスタートラインも反応も違うから方法(技法)に頼るべきではない
    ・トレーニングを始める前に意思疎通できていますか?
  2. トレーニングには「ルールの理解」「衝動の制御」2種類の考え方がある
    ・ルールの理解は一般的なトレーニング
    ・衝動の制御はメンタルキャパシティを養う
  3. 相互理解のための適切なコミュニケーションが必要
    ・望ましい行動を強化、望ましくない行動を弱化(消去)
    ・指示なしに、犬が自発的に人間の望む行動を模索する癖をつける

ということになります。
この内容は、しつけを行う前にクリアしておく基礎的な内容ですので、ここからがしつけトレーニングのスタートです。
愛犬と楽しんで進めていきましょう!

とはいえ、犬によって個別の行動やケースがありますので、それぞれの対応方法などはやはり専門家と一緒に取り組んでいくべきでしょう。
その際は、ここまでにご紹介した基礎的な知識や考え方をもっているだけで、ずいぶんと効率的にしつけ、トレーニングが進むと思います。

この記事で、愛犬のしつけやトレーニングがうまくいかずに悩まれている飼い主さんのお役に立てれば幸いです。

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著者


HIROMU ITOGA
Dog trainer/Pet sitter
日本ペットシッターサービス仙台店所属

ドッグトレーナー
動物介護士
動物介護施設責任者
愛玩動物飼養管理士