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犬のしつけ基礎:古典的条件づけの理論と実践

古典的条件づけとは何か

古典的条件づけ(こてんてきじょうけんづけ、Classical conditioning、またはPavlovian conditioning)とは、学習の一形態であり、刺激の対呈示によって刺激間に連合が起こり反応が変化することです。行動主義心理学の基本理論。この理論は、1903年にロシア(旧ソ連)の生物学者イワン・パブロフによって提唱されました。この研究、は犬に餌を与える前にベルの音を鳴らすことで、次第にベルの音を聞くだけで唾液を分泌するという条件反射の研究観察がもとになっています。

古典的条件づけの要素

古典的条件づけには以下の要素が含まれます。

  1. 無条件反射 (UR; UnConditioned Response):生体が本来持っている反応。
    例)唾液分泌
  2. 無条件刺激 (US; UnConditioned Stimulus):無条件反射を起こす刺激。
    例)餌。
  3. 中性刺激(NS; Neutral Stimulus):無条件反射を起こさない刺激。
    例)学習成立前のベルの音
  4. 条件刺激(CS; Conditioned Stimulus):条件づけによって起こる反応。中性刺激が条件づけによって条件刺激になる。
    例)学習成立後のベルの音
  5. 条件反射(CR; Conditioned Response):条件刺激によって生じる無条件反射。
    例)学習成立後のベルの音による唾液分泌

古典的条件づけの過程

古典的条件づけは、中性刺激を与えた直後に無条件刺激を与えることを繰り返すことで成立します。この過程を通じて、中性刺激は条件刺激に変化し、無条件反射を引き起こすようになります。この結果、条件反射が生じます。

古典的条件づけの研究事例

以下に、古典的条件づけに関する研究の事例を2つ紹介します。

パブロフの犬

最も有名な古典的条件づけの研究は、イワン・パブロフによるものです。彼は犬に餌を与える前にベルを鳴らすと、犬はベルの音だけで唾液を分泌するようになることを発見しました。この研究は、古典的条件づけの基本的な原理を示しています。

アルバート坊やの実験

1920年に行われたジョン・B・ワトソンとロザリー・レイナーによる「アルバート坊やの実験」も、古典的条件づけの有名な事例です。彼らは、白いラットという中性刺激と、大きな音という無条件刺激を組み合わせて、幼児のアルバートに白いラットへの恐怖反応を条件付けました(恐怖条件づけ)。その後、アルバート坊やは、うさぎや犬、毛の付いたものなどにも恐怖反応を示すようになりました。(刺激般化)
これは、パブロフの犬の実験が人間にも応用できることを示した実験ですが、当時でさえ倫理的に批判されるものでした。

古典的条件づけにおける強化、消去、自発的回復

強化

強化とは、条件刺激と無条件刺激が連続して提示されることにより、条件反応が強まる現象を指します。パブロフの実験では、ベルの音(条件刺激)と食物(無条件刺激)が連続して提示されることにより、犬はベルの音だけで唾液を分泌するようになりました。これは、ベルの音と食物の連続的な提示により、ベルの音が食物の予兆となり、食物に対する反応(唾液の分泌)がベルの音に対しても起こるようになったからです。このように、条件刺激と無条件刺激の連続的な提示により、条件反応が強まる現象を強化と言います。

消去

一方、消去とは、条件刺激だけが提示され、無条件刺激が提示されない状況が続くと、条件反応が次第に弱まり、最終的には消失する現象を指します。パブロフの実験で言えば、ベルの音だけが鳴らされ、食物が与えられない状況が続くと、犬はベルの音に対して唾液を分泌しなくなります。これは、ベルの音が食物の予兆でないと学習することにより、ベルの音に対する唾液の分泌反応が消失するからです。このように、条件刺激だけが提示される状況が続くと、条件反応が消失する現象を消去と言います。

自発的回復

消去後も、一定期間が経過してから条件刺激が再び提示されると、条件反応が再び現れることがあります。これを自発的回復と言います。パブロフの実験では、消去後に一定期間が経過した後、再びベルの音が鳴らされると、犬は再び唾液を分泌しました。この現象は、条件刺激と無条件刺激の関連性が完全に消え去ったわけではないことを示しています。

古典的条件づけにおける強化、消去、自発的回復は、私たちの学習や行動に大きな影響を与える要素です。これらの理解は、行動変容や治療、教育などの分野での応用につながります。

古典的条件づけの応用:系統的脱感作と拮抗条件づけ

系統的脱感作と拮抗条件づけは、古典的条件づけの一部であり、特定の反応を変えるための有効な手法です。これらの手法は、特に不安や恐怖といったネガティブな反応を改善するために用いられます。

系統的脱感作とは

系統的脱感作は、不安や恐怖を引き起こす刺激に対する反応を減らすための心理療法の一つです。この手法は、ウォルピ,Jによって開発され、不安を引き起こす刺激に対する反応を徐々に減らすことを目指します。

具体的には、まず不安を引き起こす刺激をリストアップし、それらを不安を引き起こす程度に応じてランク付けします。これを不安階層表と呼びます。次に、リラクセーション法(深呼吸や筋肉の弛緩など)を用いてリラックス状態を作り出します。その後、不安階層表の最も低い項目から始めて、その刺激を想像しながらリラクセーション法を行います。これを繰り返すことで、徐々に不安を引き起こす刺激に対する反応が減少します。
犬における系統的脱感作では、リラクセーション法をコントロールできないため、次章の拮抗条件づけを併用します。

拮抗条件づけとは

拮抗条件づけは、不安や恐怖を引き起こす刺激に対する反応を変えるための手法です。具体的には、不安や恐怖を引き起こす刺激(条件刺激)が提示されたときに、それとは逆の反応(例えば、リラックスする)を引き起こす新たな刺激(無条件刺激)を提示します。これにより、条件刺激が提示されたときには、元々の不安や恐怖の反応ではなく、新たな反応が引き起こされるようになります。
犬における拮抗条件づけでは、無条件刺激として価値の高いトリーツ(おやつ)などを使用するケースが多いです。

系統的脱感作と拮抗条件づけの違い

系統的脱感作と拮抗条件づけは、どちらも不安や恐怖を引き起こす刺激に対する反応を変えるための手法ですが、そのアプローチは異なります。系統的脱感作は、不安を引き起こす刺激に対する反応を徐々に減らすことを目指します。一方、拮抗条件づけは、不安を引き起こす刺激に対する反応を、新たな反応に置き換えることを目指します。

ドッグトレーニングにおける古典的条件づけの実例

犬のトレーニングにおいても、古典的条件づけは広く利用されています。例えば、「クリッカートレーニング」は、クリッカーという特殊な音を出す道具と、ご褒美(通常はおやつ)を組み合わせて、犬の行動を条件づけます。クリッカーの音(中性刺激)が鳴った後におやつ(無条件刺激)を与えることを繰り返すことで、犬はクリッカーの音を聞くだけで喜ぶようになります。これにより、犬はクリッカーの音を聞くと良いことが起こると学習します。

まとめ

古典的条件づけは、犬の行動を理解し、訓練するための重要なツールです。パブロフの犬の実験から始まり、現在では多くの研究者やドッグトレーナーがこの理論を利用しています。犬の行動を変えるためには、理論だけでなく、その適用方法も理解することが重要です。この記事を通じて、古典的条件づけの基本的な理論とその実践的な応用について理解を深めていただければ幸いです。

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著者


HIROMU ITOGA
Dog trainer/Pet sitter
日本ペットシッターサービス仙台店所属

ドッグトレーナー
動物介護士
動物介護施設責任者
愛玩動物飼養管理士